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日本島嶼学会会長就任挨拶

琉球大学 嘉数 啓

 

 2005年度対馬学会総会において、第三代会長に選出されました。本来ですと、「晴天の霹靂」と驚きを発すべきところですが、理事の皆さんに根回しされて、覚悟を決めていました。特に学会をリードされてきた竹内啓一第二代会長の急逝を受けての登板ですので、気の引き締まる思いです。本学会は誕生してまだ満七歳、二年生に進級したばかりです。お引き受けした以上は、先代会長の熱意と業績を踏まえ、誠心誠意努力する所存であります。幸いにして、これまで学会運営に心血を注いでこられた鈴木勇次、皆村武一副会長、長嶋俊介、大城肇常任理事をはじめ、新旧役員の皆様のサポートを得ることができましたので、「島嶼学会丸」に同船いただいた会員の皆様と一心同体になって舵を取っていきたいと思っております。

 本学会のあり方をめぐって、竹内前会長、山階元会長と何回か意見交換をさせていただいたことがあります。両会長とも本学会の国際化を強く意識しれおられました。現在小職が務めております国際島嶼科学発展協議会(INSULAMan and Bioshphereのテーマに特化したユネスコ傘下のNGO組織で、International Journal of Island Affairsを刊行)の副会長のポストは、山階初代会長から引き継いだものです。1994年に沖縄で世界島嶼会議と第一回国際島嶼学会(ISISA, www.geol.utas.edu.au/isisa)を開催した際に、山階先生のご要請もあって、INSULA事務総長のピエール・ダヤラさんをお招きしました。当時のISISA会長はカナダのセオ・ヒルズさんでしたが、世界島嶼会議の運営をめぐってダヤラさんと意見が衝突し、島嶼学(Nissology)の名付け親であります現在のISISA会長のグラント・マッコールさんがうまく調停した経緯があります。その後私は両方の組織に属し、微力ながらも本学会との橋渡し役を担ってきました。2002年に沖縄で開催された本学会の研究大会では、ISISA理事(当時)で、島嶼研究・教育で先端を行くカナダのプリンス・エドワード大学のアニー・ピアス、バートマン・バリー両教授をお招きして交流を深めました。また昨年、金門島で開催された世界島嶼会議・国際島嶼学会では、世界の主だった島嶼研究団体の紹介の場を設けましたが、本学会を代表して長嶋理事に本学会の紹介をお願いしました。さらに、先般沖縄本島と宮古島で開催された「世界島嶼会議プレ会議」は、琉球大学、本学会、琉球新報、宮古平良市との共催で、南太平洋島嶼地域から6名の学長を含む11名の参加者を得て、国際島嶼学会のマッコール会長に基調講演をお願いして実施し、一般参加者からも高い評価を得ました。マッコールISISA会長とは、大城理事はむろんのこと、長嶋理事の出席も得て、両学会の連携に向けた意見交換を致しました。来年の7月29日〜8月3日にマウイ島で開催されるISISA理事会に諮り、本学会からISISA理事を送り込みたいと考えています。マッコール会長からは、島嶼研究で世界の先端を走る本学会の研究成果、情報を世界に発信、紹介すべく、双方のHPをリンクしたいとの提案もあり、対応したいと思っております。そのためには、こちらの英文HPを充実する必要があります。

 従って、先代会長の意志を引き継いで小職が取組むべき課題の一つが、本学会の国際的なネットワーク化と本学会の世界に向けた情報発信であります。そのためには、特に英語による研究成果の発信を重視したいと思っています。先述のINSULAのジャーナル(www.insula.org)、つい最近創設した電子ジャーナル、Island Studies Journal (Small Island Information Network, www.upi.ca)などにどしどし論文を発表していただきたいと思います。すでに日本語で発表された論文の英訳でも構いません。

ご承知の通り、日本学術会議議長に黒川清さんが就任して以来、学術会議の改革が急ピッチですすめられています。黒川議長とは内閣府の二つの委員会でお会いする機会があり、懸案になっている本学会の学術団体としての登録について打診することになりますが、やはり問われるのは学会のグローバルな発信実績だと思います。

もうひとつ重要な課題は、意欲のある会員の獲得と、会員サービスの充実であります。9月1日現在の「正会員」は200名を切っており、理事の皆さんのご尽力にもかかわらず、学会創設当時からほとんど増えていません。会員(正、準、学生、賛助)を持続的に増やすには、学会活動の裾野を広げると同時に、会員サービスの充実を図る必要があります。そのためには、特に地域レベルでの学会活動(研究会、シンポジュームなど)を活発にし、特に島嶼地域に根を張った学会にしたいと考えています。会員が寄稿する新聞記事などには必ず「日本島嶼学会会員」と表記し、ニュスレター、島嶼研究、年報などを効果的に会員にお届けしたいと思っています。財政基盤の強化も大きな課題になっており、特に離島市町村を回って賛助会員を勧誘したいと思っています。対馬大会で試みたように、インターネットを利用したオンラインビデオ遠隔通信システムを通して、本学会の研究大会はむろんのこと、学会情報を特に遠隔島嶼地域に発信したいと思っています。

 本学会でもしばしば「島はインターナショナル」とか、「島は国境を意識しない」というテーマの報告があります。島嶼は多くの場合、その成り立ちからして、二つの相反する特質をもっています。一つは柳田国男の「海上の道」や「ビーチコーマー(beach-comber)」に象徴されるように、外に開かれたオープンな社会経済の特質です。この特質が多くの場合、豊穣の「来訪神=ニライカナイ」を呼び込むと同時に、また多くの場合、「国境」に位置しているがゆえに、領有権をめぐっての紛争、果ては外部の侵略、略奪に晒され、数多くの悲劇の舞台にもなりました。

二つは、「島ちゃび(痛み)」、または「島嶼シンドローム」に象徴されるように、外界から隔絶した伝統的、閉鎖的な社会経済の特質です。「シマンチュ=島の人」という呼び名には、よそ者を受けつけない強固な「島共同体」のイメージがつきまとうのはそのためです。これを島の「両義性」といいますが、この二つの特質が並存し、葛藤を繰り返してきたのが多くの島の共通の特質であり、また解決すべき課題でもあります。

 多くの島は近代文明の中心部から離れた「辺境」に位置していますが、同時に新しい文明を生み出す「フロンティア」でもあります。島嶼地域は多様で、固有の自然、歴史、文化を育んできました。当然ながら、島嶼の研究・調査手法は「学際的・複合的」あるいはグンナー・ミュルダールのいう「超学的(trans-disciplinary)」に加えて、「ネットワーク型」、「参加型」のアプローチにならざるを得ません。沖縄―対馬往復の旅で読んだ宮本常一の『民俗学の旅』にも、フィールドに根を下ろした「学際的」、「実践的」アプローチの必要性が説得的に提案されており、万人の「味方」を得た思いであります。ただ、学際的、超学的といっても実際には難しく、各自が異分野の研究成果を自らのデシプリンに取り込み、「分野の共有=コミュニケーション」を通して、それぞれの専門分野の裾野を豊かに広げ、ユニークに「深化」させていく基本姿勢をもちたいものです。いろんなデシプリンをもった研究者が集まって、「島嶼」という共通の土俵で議論できるところにこの学会の最大の特色とメリットがあります。琉球大学の小職のHPに書き込んでありますが、私達の島嶼研究の分野から、将来必ずノーベル賞クラスの研究者・団体を誕生させたいと願っています。会員の一層のご健康とご活躍を期待して、ご挨拶と致します。ありがとうございました。


嘉数 啓 (略歴)

903-0213 沖縄県西原町千原1番地

琉球大学役員室

 
                                                                                                                    

1942年沖縄県本部半島に生まれ、伊江島、伊是名、伊平屋を眺望しながら育つ。1971年ネブラスカ大学大学院より経済学博士号(Ph.D)取得。琉球大学助教授、アジア開発銀行(ADB)エコノミスト(南太平洋島嶼国担当)、日本国際大学大学院(在新潟)教授・研究科長・理事・アジア発展研究所所長、名古屋大学大学院国際開発研究科教授、沖縄振興開発金融公庫副理事長, 日本大学生物資源科学部教授兼大学院グローバル・ビジネス研究科兼担教授を経て、2004年4月より国立大学法人琉球大学理事・副学長就任。

その間、ロンドン大学政治経済大学院(LSE)客員研究員、ハワイ東西文化センターフルブライト上級研究員(PIDP=南太平洋開発プログラム)、ハワイ大学、フィリピン大学国際交流基金客員教授、ガジャマダ大学、オーストラリア国立大学(ANU)、国立済州大学客員教授等歴任。専門は国際開発論、東ジア経済論、島嶼経済論、プロジェクト評価論

 

島嶼に関する主要業績:

「世界島嶼会議」創設メンバー(1986年、カナダ・バンクーバー島)

国際島嶼学会(ISISA)創設理事(1992年、バハマ)

国際島嶼ジャーナリスト会議実行委員長(1993年、那覇)

国際島嶼学会第一回大会実行委員長(1994年、那覇)

国連大学「島嶼持続可能開発」プロジェクトアドバイザー(1995年〜97年)

島嶼観光政策フォーラム(沖縄、済州島、バリ、海南島)創設(1995年〜)

日本島嶼学会発起人(1998年、長崎)

「島嶼観光と文化」に関するUNESCOパネリスト(パリ、1996年)

INSULA: International Journal of Island Affairs (UNESCO, Paris) 編集顧問(1992年〜現在)

国際島嶼発展科学評議会((INSULA= International Scientific Council for Island Development) 

副会長・東アジア太平洋地区代(2000年〜現在)

日本島嶼学会特別研究会・基調講演(1999年、名瀬市)

日本島嶼学会相談役・副会長(2001年〜2003年)

日本島嶼学会研究大会・沖縄大会実行委員長(2002年、琉球大学、伊平屋)

世界島嶼会議・国際島嶼学会実行委員・基調講演(2004年、金門島)

国際島嶼学会沖縄プレ会議実行委員長(2005年、琉球大学、那覇、宮古平良市)

日本島嶼学会会長(2005年9月23日、日本島嶼学会総会、長崎県対馬市)

 

島嶼に関する主要単著:

 

The Challenge for Okinawa: Thriving Locally in a Globalized Economy (Nihon University, 2004)

『沖縄の挑戦:経済のグローバル化と地域の繁栄』(沖縄振興開発金融公庫、2000年)

The Structure of Okinawa’s Economy (Nagoya Chunichi Publishing Co.,1997)

『国境を越えるアジア成長の三角地帯:GT構想の全貌』(東洋経済新報社(1995年)

Sustainable Development of Small Island Economies (Westview Press, 1994)

『島嶼経済論』ひるぎ社 (1986年)

 

内外の専門誌,共著に島嶼に関する研究論文多数発表

 

「第10回アジア太平洋賞特別賞」吉田恒昭東京大学教授と共同受賞(1998年)

 

 主要研究テーマ:島嶼の持続可能な発展、島嶼間のネットワーク